「超」入門 失敗の本質 鈴木博毅⑦


テーマ:なぜ「集団の空気」に支配されるのか?

○場の「空気」が白を黒に変える

●体験的学習の文化が誤認を助長する

・空気の醸成の悪影響

①    本来「それとこれは話が別」という指摘を拒否する

②    一点の正論のみで、問題全体に疑問を持たせず染め抜いてしまう

・目の前の出来事に対して、追いかける指標〈戦略〉を理解していないにもかかわらず、体験的学習から特別な発見を導き出して「一点突破全面展開」を行う傾向が日本人にはある。

●議論の「影響比率」を締め出させるな

・本来その問題が正しいか間違っているか判断すべき基準として、影響する比率が1%にも満たないことを取り上げて、問題自体を一方的に決め付けてしまう空気の醸成は、断固見破らなければならない。

●空気の正体を理解して打ち破る知恵

・「空気」とは体験的学習による連想イメージを使い、合理的な議論を行わせずに、問題の全体像を一つの正論から染め上げてしまう効果を持つ。議論の「影響比率」を明確にし、意図的な「空気の醸成」が導く誤認を打ち破る知恵を身につけるべき。

○都合の悪い情報を無視しても問題自体は消えない

●方向転換を妨げる4つの要素

①    多くの犠牲を払ったプロジェクトほど撤退が難しい

②    「未解決の心理的苦しさ」から安易に逃げている

③    建設的な議論を封じる誤った人事制度

④    こうであってほしいという幻想を共有する恐ろしさ

●情報を封鎖しても問題は消えない

・情報や正しい警告を受け入れなくとも、問題自体は消えることはない。グループ・シンクやサンク・コストの心理的罠にどれだけ早く気づき、方向転換できるかが組織の命運を決める。

○リスクを隠すと悲劇は増大する

●リスクを隠すことで、損害は劇的に増えていく

①損害を劇的に増やす

②新たな損害を自ら生み出す

●実際に起こらなくても得はしていない

①リスクとされている事象に注意を払う人が増える

②リスクを理解していることで、不意打ちを避けられる。

●耳の痛い情報を持ってくる人物を絶対に遠ざけない

・コンチネンタル航空ゴードンCEOのリスク対応

①最大限迅速に「早く」対応する

②何より「真実」を正確に把握する

③リスクを隠すのでなく「周知徹底」することで予防につなげる

・リスクは「目を背けるもの」でも「隠す」ものでもなく、周知させることで具体的に管理されるべきもの。ビジネスでは、リスクを「かわす」のではなく、徹底して管理しなければ、存続していくこと自体が難しくなる。

 

サラリーマンにとっての出世への道は「空気を読むこと」と一般的には言われるけれども、その空気自体が間違ったもので、その空気を読むことによってのし上がってきた幹部が増えてくるとその会社は将来が暗いということを第二次世界大戦の日本軍の状況を例に身にしみるほど実感しました。

大きな組織になればなるほど「集団の空気」が醸成されていて、諫言や助言を受け付けない風土になり、戦略も体験的学習からの「一点突破全面展開」型に陥ってしまう。

またリスクへの対応の仕方も参考になります。日本企業はリスクを「回避」することにばかり目がいき、リスクをとってリスクを「管理」することをしてこなかったという部分はなるほどと思えた部分です。

組織としての成長を計るならば、リスクの開示、正確な情報の把握、迅速な行動が必要だと感じました。

 

「超」入門 失敗の本質 鈴木博毅⑥


テーマ:なぜ「真のリーダーシップ」が存在しないのか?

●自分の目と耳で確認しないと脚色された情報しか入らない

○正確な情報はトップには届かない

・ピラミッド型組織の二つの危険性

①    「縄張り意識」「派閥意識」による自分の義務と責任以外への無関心

②    重要な情報が組織内でろ過・要約されトップに概略しか伝わらない

○トップの行動力は組織の利益に直結する

・トップが最前線を自分の目と耳で確認する5つのメリット

①    情報が階層にフィルタリングされ、ゆがんだ形でしか伝わらないことを避ける

②    決定権者が最前線の問題を直接知ることで、改善スピードが段違いに早まる。

③    誤った情報をもとに、不適切な対策を続ける状態を見破ることができる。

④    問題意識が一番鋭い人物が現場に足を運ぶことで、新たなチャンスを発見する。

⑤    現場のスタッフとの意思疎通と、最前線の優れたアイデアをトップが直接検討可能。

・組織の階層を伝ってトップに届く情報は、フィルタリングされ担当者の恣意的な脚色、都合のいい部分などが強調されていることが多い。問題意識の強さから、優れたアンテナを持つトップは、激戦地(利益の最前線)を常に自らの目と耳で確認すべき。

●リーダーこそが組織の限界をつくる

○チャンスをつぶす人の3つの特徴

・3つの特徴

①    自分が信じたいことを補強してくれる事実だけを見る

②    他人の能力を信じず理解する姿勢がない

③    階級の上下を超え、他者の視点を活用することを知らない

○リーダーとは新たな指標を見抜ける人物

・優れたリーダーとは、組織にとって「最善の結果」を導ける人であり、自分以外を無能と断定する人ではない。

・新たな指標としての戦略は、現場から生まれることが多く、リーダーはそれを見抜く必要がある。

○戦略を理解しないリーダーは変化できない

・愚かなリーダーは「自分が認識できる世界」を、組織の限界にしてしまう。逆に卓越したリーダーは、組織全体が持っている可能性を無限に引き出し活用する。

●間違った「勝利の条件」を組織に強要する

○優れたリーダーは「勝利の条件」に最大の注意を払う

・「間違った勝利の条件」を組織に強要するリーダーは集団に混乱を招き、みじめな敗北を誘発させているだけである。求める勝利を得るためには、「正しい勝利の条件」としての因果関係に、繊細かつ最大限の注意を払うべきである。

●居心地の良さが、問題解決能力を破壊する

○不均衡を創造する、自己革新型組織の特徴

・「居心地の良さ」とは正反対の、成果を獲得するための緊張感、使命感、危機感を維持できる「不均衡を生み出す」組織が生き残る。指揮を執る人間には「見たくない問題を解決する覚悟の強さ」が何より要求される。

 

 

 

今回特に印象に残ったのは、リーダーに求められる資質の部分。リーダーに求められるのは私が解釈するに次の3つ

①現場主義に徹し、今支配的な指標から、新たな指標を打ち出すことができる。

②ダブルチェックを受け入れる謙虚さを持ち、客観的に自分を見つめられる。

③現状の居心地の良さに満足せず常に不均衡を生みだし、変化し続ける。

そうすることによって、真のリーダーシップを発揮することができるという風に理解しました。

リーダーが組織をつぶしてはいけない。組織のリーダーたるものはしっかりと自覚して、行動しなければいけないと感じました。

「超」入門 失敗の本質 鈴木博毅⑤


テーマ:なぜ「現場」をうまく活用できないのか

●司令部が現場の能力を活かせない

○知らない現場も分かっていると思い込む傲慢さ

①上層部が「自分たちの理解していない現場」を蔑視している。

①    上層部が「現場の優秀な人間の意見」を参照しない。

・あなたが「知らない」という理由だけで、現場にある能力を蔑視してはいけない。優れた点を現場に見つけたら、自主性・独立性を尊重し、最大・最高の成果を上げさせる。

●現場を活性化する仕組みがない

○米軍が追求した、戦果につながる人事システム

①有能な者の能力をフルに発揮させ、かつ知的エネルギーを枯渇させない人事を採用

②実戦で優秀さを証明した少数の者に、重要な仕事を集中させて成果を極大化した。

・米軍は作戦立案をする中央の作戦部員が、現場感覚と最前線の緊張感を常に失うことなく侵攻に邁進できた。現場の体験、情報を確実に中央にフィードバックし、目標達成の精度と速度をさらに高めていく仕組みを作ることが重要である。

●不適切な人事は組織の敗北につながる

○評価制度の指標変更は、組織運営最大のモチベーション

①戦場で迅速な行動力と勝利への執念がある人物は高く評価される。

②非効率で行動が遅く、成果を挙げない人物は降格される。

○プロジェクトごとにリーダーを選出する仕組み

①プロセスに感情が入り込む余地を排除したので、選ばれた者は結果に自信を持つ

②選ばれなかった者も、次の機会に希望を持って能力向上に励むことができる

・厳しい課題に直面していたら、「お飾り人事」を徹底排除し、課題と配置人材の最適化を図ること。能力のない人物を社内の要職に放置すれば、競合企業を有利にさせる以外の効能はない。

 

 

今回のテーマは現場活用について。主に人事における、日本軍・米軍の勝敗を分けた理由と会社組織における人事をリンクさせて解説されています。日本型組織では旧日本軍時代から「お飾り人事」が横行し、きちんとした信賞必罰の制度が確立されていない現状がある。それに対してアメリカ型組織は信賞必罰を徹底し、人事が目標に一直線に進む強力な組織を作り上げていく。組織における人事の重要性を痛切に感じます。

「超」入門 失敗の本質 鈴木博毅 ④


テーマ:なぜ「型の伝承」を優先してしまうのか

●成功の法則を「虎の巻」にしてしまう

○日米軍の「強み」の違いが勝敗を分けた

・日本軍の強み

①    体験的学習によって偶然生まれるイノベーション

②    練磨の極限を目指す文化

・米軍の強み

①    戦闘中に発生した「指標」を読み取る高い能力

②    相手の指標を明確にし、それを差し替えるイノベーション

○成功の本質でなく、型と外見だけを伝承する日本人

・過去の経営者の成功体験を「単なる形式」としてだけ伝承し、当時なぜ成功を収めることができたかという「勝利の本質」がまったく組織内に伝承されていないことが失速の原因なのではないか。

・日本軍と米軍の強みの違いが、大東亜戦争の推移と勝敗を決定した。「型の伝承」のみを行う日本の組織が「勝利の本質」を伝承できていないことで、強みを劣化・矮小化させて次世代に伝えている。

●成功体験が勝利を妨げる

○過去の成功体験が通用しなくなるとき

・体験的学習だけに依存する場合、「成功体験のコピー・拡大生産」こそが戦略だと誤認するわかりやすい事例だといえる。

○体験の伝承でなく、「勝利の本質」を伝えていく

・「型の伝承」と「勝利の本質」は明確に区分されて、ともに伝えられなければならない。そうしなければ、今ある姿を維持することが組織全体の正義となり、おかしなことに勝利を追求するための議論と変化さえ、ほぼ全員で強固に否定するゆがんだ集団になりかねない。

・戦略を「以前の成功体験をコピー・拡大生産すること」であると誤認すれば、環境変化に対応できない精神状態に陥る。「型のみを伝承」することで、本来必要な勝利への変化を全否定する歪んだ集団になってしまう。常に「勝利の本質」を問い続けられる集団を目指すべき。

●イノベーションの芽は「組織」が奪う

○勝利の本質を議論できない集団

・日本軍の「予想外の大きな壁」とは軍部・軍人のレーダー兵器に対する「理解の無さ」と「徹底的な軽視」にある。

・海軍の強固な思い込みが、民間研究者たちの成功の扉を固く閉ざした。

○組織がチャンスを潰す

・技術的イノベーションを成果に育てられるかどうかは、組織内に浸透する意識構造に非常なまでに左右されてしまう。

・「本質ではない型の伝承」によって、組織はイノベーションを敵対視する集団に劣化してしまう。

・一人の個人が行うイノベーションでさえも、組織の意識構造によって生み出されるか、つぶされるかが左右される。「型の伝承」から離れ、「勝利の本質」を伝承する組織になることで初めて、所属する全ての人間が変化への勝利に邁進できる集団となる。

 

日本の大企業がこのところ振るわず、アップルなどのイノベーションについていけなくなったのは日本人固有の「型の伝承」という観念にとらわれすぎて、「成功の本質」というものを顧みなくなったことが原因だということが理解できました。

過去の成功体験による「型」が必ずしも時がたって有効であるとは限らない。組織は柔軟に成功の本質の芽となる意見や人材を採用しないと淘汰されていく。組織の意識が変わらなければ、成功はあり得ないということを痛切に感じました。

 

 

「超」入門 失敗の本質 鈴木博毅③


テーマ:なぜイノベーションが生まれないのか?

●新しい戦略の前で古い指標はひっくり返る

○戦略とは「追いかける指標」のことである

・戦略の優位性とは「追いかける指標」の有効度そのもの

○イノベーションを創造する3つのステップ

①    「既存の指標」の発見

②    敵の指標の「無効化」

③    「新指標」で戦う

○市場で苦境に陥った日本の主要家電メーカー

・イノベーションとは、支配的な指標を差し替えられる「新しい指標」で戦うことである。同じ指標を追いかけるだけではいつか敗北する。家電の「単純な高性能・高価格」はすでに世界市場の有効指標ではなくなった。

●技術進歩だけではイノベーションは生まれない

○スティーブ・ジョブズのイノベーション

①「既存の指標」の発見

・工業製品的デザイン

・処理能力や価格競争

・商品単体で完結する機能性

・通話や通信の高い品質

②敵の指標の「無効化」

・おしゃれなデザイン

・感覚的操作性

・ネットワーク型の利便性

・オープンソースによるアプリ開発

③「新指標」で戦う

・プラットフォーム化し、技術競争、価格競争から一線を引く

○ダブル・ループ学習とイノベーションの関係

・シングル・ループ学習とは「目標や問題の基本構造が変化しない」と考える。ダブル・ループ学習は「想定した目標や問題自体が間違っているのではないか」という疑問・検討を含めた学習法。

・ダブル・ループの学習者はシングル・ループの学習者を一方的に攻撃できる能力を持つ。

○『失敗の本質』が示唆したイノベーションのヒント

・イノベーションを作り出すには、現時点で支配的に浸透している「指標」をまず見抜く必要がある。体験的学習に陥りがちな、成功体験の単なるコピーではなく、対象者の中に隠れて存在する「戦略としての指標」を発見することになれるべきである。

・日本人は体験的学習から過去いくつものイノベーションを成し遂げたが、計画的に設計されたイノベーションを創造するためには、既存の指標を見抜き、それを無効化する新しい指標をダブル・ループ学習で見出す必要がある。

●効果を失った指標を追い続ければ必ず敗北する

○勝利に必要な指標を見抜く力があるか

・勝敗を左右するのはどちらの側がより正確に勝利への指標を理解しているかである。何を追いかけるべきか、勝利に必要な指標を見抜く。

○効果を失った指標から離れる難しさ

・日本の半導体がシェアを失った理由として日本メーカーがDRAM業界のイノベーションに対応できなかったことが指摘されているが、効果を失った指標から離れ、新たに有効な指標を追いかけることができなかったことが勝敗を分けたといえる。

○高い性能を目指すか、イノベーションを目指すか

・画像が美しくなること、スピードがより速くなることで、消費者側の購入指標が変化するのであれば、技術的改善がイノベーションに直結することになるが、処理速度が速くなっても、消費者が「これを購入したい」と思わない変化であれば、それはイノベーションではない。

・イノベーションは既存の戦略を破壊するために生み出されており、効果を失った指標を追い続けることは、他社のイノベーションの餌食となることを意味する。高性能とイノベーションは偶然重なることもあるが、本来は別の存在である。

 

 

戦略とは「追いかける指標の有効度」そのもの。そして3つのステップとして①既存指標の発見②敵の指標の無効化③新指標の発見というプロセスがあるということ。ゼロ戦の弱点を見つけ、完全に戦い方を変えた米軍や日本メーカーの技術力競争から一気にデジタル機器の土俵を変えたアップルなど日本は完全にアメリカにしてやられていると改めて思いました。

日本人固有の練磨の精神、体験的学習至上主義というものが、イノベーションを起こすことを阻害しているということにはすごく納得がいきました。大企業が陥りがちな過去の成功体験による慢心を取り除くためにも、ダブル・ループ学習というものがいかに重要なことかということがわかりますね。

 

 

「超」入門 失敗の本質 鈴木博毅②


テーマ:なぜ「日本的思考」では変化に対応できないのか

●ゲームのルールを変えた者だけが勝つ

○練磨の文化を持つ日本と日本人の美点

・日本人は「練磨」の文化と精神を持ち、独自の行動様式から、特定の分野で素晴らしい強みを発揮できる民族である。

・日本の戦後経済の発展は「モノづくりの文化」が支えたといわれるが、改善を続けることで生まれる洗練は、日本人が民族的文化として持つ美点の一つ。

○型を反復練習することで、型を超えるという発想

・日本軍のもう訓練・猛反復による精強さはある種、日本のサムライ、武士の日本刀と剣術稽古にイメージが重なる。猛訓練により反復し、気が遠くなるほどけいこを繰り返すことで、やがて本人が体で技を覚え、最後には「型をマスターすることで型から離れ」剣術の達人になっていく。

○操縦技能、射撃制度を極限まで追求した日本人

・驚異的な技能を持つ達人の養成に、日本軍はかなりの力を注ぎ、実際に戦果も挙げた。しかし、兵員練度の極限までの追及は、精神主義と混在することで、後の日本軍の軍事技術・戦略の軽視につながったと指摘されている。

○当たらなくても撃墜できる兵器をつくったアメリカ人

・米軍は「達人を不要とするシステム」で日本軍に対抗した。達人ではなく「システム思考」的な方向へ、先頭を段階的に転換させた。

・「命中精度を極限まで追求しなくても勝ててしまう」という発想も、日本軍の想定する「猛訓練による達人の命中精度」が勝敗を決める船上とはあまりにも異なる世界観である。

・米軍側が「ゲームのルールを変えた」ことで、勝利につながる要素も変化した。

・ビジネスでゲームのルールを変えるのは、常にアメリカ企業であり、日本企業がそのルール変更に翻弄される姿は、名機ゼロ戦の苦戦とも重なる。

○日本人の苦手な、大きく劇的な変化を生み出すもの

・「一つのアイデアを洗練させていく」ことが得意な日本人は、小さな改善、改良を連続的に行うことで既存の延長線上にある成果を上げることに成功しやすい。

・改善を継続することで「小さな変化」を洗練させていく日本軍は、「劇的な変化」を生み出す米軍に、ゲームのルールを変えられて敗退したと考えられる。

○「ゲームのルール変化」に弱い日本組織の仕組み

・現代日本企業の弱点

①    前提条件が崩れると、新しい戦略が策定できない

②    新しい概念を創造し、それを活用するという学習法のなさ

③    目標のための組織ではなく、組織のための目標をつくりがち

④    異質性や異端を排除しようとする集団文化

・モノづくり大国として「高い生産性」と「高品質」を武器に世界市場を席巻した日本製品が、現在では製品単体の性能でなく「ビジネスモデル戦略」で敗退している。

・日本は一つのアイデアを洗練させていく練磨の文化。しかし、閉塞感を打破するには、ゲームのルールを変えるような、劇的な変化を起こす必要がある。

●達人も創造的破壊には敗れる

○創造的破壊を生み出す3つの要素

①ヒトによる創造的破壊

②技術による創造的破壊

③運用方法による創造的破壊

○「ヒト」の柔軟な活用が米軍の勝利を生み出した

・米軍は技術研究者の自主性・独立性を強く尊重することで、彼らの才能を最大限に発揮させた。一方の日本軍は、権威によって現場や優れた技術者を抑圧し、トップの考えたことが正しいという主張を繰り返し、自由を認めなかった。

○「新しい技術」が戦局を変える変化を生み出した。

・注目すべきは、米軍が開発した新エンジンが飛行速度を保ちながら「重武装・高い防弾性」を可能にしたことで、空戦の勝敗を決定する要因〈指標〉が変わり、零戦が敗れた点。

○相手が積み重ねた努力を無駄にする仕組み

・同じルールではなくルール自体を変えてしまえば、圧倒的に有利な状況を作り出せる。

・創造的破壊を生み出す三つの要素

①    「ヒトと組織」の極めて柔軟な活用による自己革新

②    「新技術」の開発による自己革新

③    技術だけではなく「技術の運用」による自己革新

・既存の枠組みを超えて「達人の努力を無効にする」革新型の組織は、「人」「技術」「技術の運用」の3つの創造的破壊により、ゲームのルールを根底から変えてしまう。

●プロセス改善だけでは、問題を解決できなくなる

○日本軍の知識を強化する学習

・仮にプロセス=「過程・経過」と考えると、過程を洗練させる「プロセス改善」とはスタートラインとなる「思想・手法」をそのままに、その過程を最大限改良することで、結果をより良いものにしていく作業と考えることができる。

○売れないのは努力が足りないからだ!は本当か?

・プロセス改善での成功体験は、努力至上主義や精神論と大変結びやすい性質である。

・「現場の努力が足りない」という安易な結論は、直面する問題の全体像を上級指揮官が正しく把握していないことに本当の原因がある。

○「ダブル・ループ学習」で問題解決に当たる

・「ダブル・ループ学習」とは、目標や問題の基本構造が違っているのではないかという疑問・検討を含めた学習スタイルを指す。

・ダブル・ループ学習で疑問符をフィードバックする仕組みを持つ。「部下が努力しないから駄目だ」と叱る前に問題の全体像をリーダーや組織が正確に理解しているか再確認が必要である。

 

今回特に印象に残ったのは、「ゲームのルールを変える」ということ。太平洋戦争では日本軍の「練磨」「反復での型の極め」を全く無効にしたアメリカ軍のVT信管という命中精度が低くても効果的な武器の話。アップルがプラットフォーム戦略で日本の電機メーカーの性能へのこだわりを無効にしたこと。「日本的思考」に傾倒しすぎるとグローバルなマーケットでは通用しないということを思い知らされました。社内においてもダブル・ループ学習でフィードバックをしながら、そういった思考に陥らない工夫をすべきだと感じます。自分自身も自分の成功体験や慣習に縛られることなく、常にクリエイティブに物事を考えていかなければならないと心に刻みました。

「超」入門 失敗の本質 鈴木博毅①


テーマ:なぜ「戦略」があいまいなのか?

●戦略の失敗は戦術で補えない

○戦略とは「目標達成につながる勝利」を選ぶこと

・大局的な戦略とは「目標達成につながる勝利」と「つながらない勝利」を選別し、「目標達成につながる勝利」を選ぶこと。米軍を抑止する効果のない17もの島に上陸占拠した日本軍は、目標達成につながらない勝利を集めており、大局的な戦略を持っていなかったと判断できる。

○戦略の失敗は戦術で補えない

・「ガラパゴス化」という言葉は、孤立する日本製品の独自の進化を指す時によくつかわれてきたが、いくら高度な機能を備えていても、標準規格を海外企業に独占されてしまい、最終的にシェア争いで敗れてしまえば、最終的な勝利にはつながらないことを意味する。

・戦略とはいかに「目標達成につながる勝利」を選ぶかを考えること。日本人は戦略と戦術を混同しやすいが、戦術で勝利しても、最終的な勝利には結び付かない。

●「指標」こそが勝敗を決める

○日本軍と対立した石原莞爾の勝利の戦略

・石原…「持久総力戦」という発想。日本軍…「決戦戦争」という発想。

・石原の指標…国家の国力、生産補給力で勝利が決まる。日本軍の指標…どこかの戦場で大勝利をすれば勝敗が決まる。

・戦略とは「追いかける指標」のことであり、戦略決定とは「追いかける指標を決める」ことであるとすれば、石原と日本軍の違いは、追いかける指標の違いである。

・戦略の失敗は戦術では取り戻せないので、有効な指標を見抜く指標の設定力こそが最大のポイントとなる。

・勝利につながる「指標」をいかに選ぶかが戦略である。性能面や価格で一時的に勝利しても、より有利な指標が現れれば最終的な勝利にはつながらない。

●「体験的学習」では勝った理由が分からない

○大局観に欠け、部分のみに固執する日本軍

・日本軍側には作戦命令において、戦略が存在しないか、あっても「誤った指標」を追いかけていると判断できる。一方米軍は、「空母を最優先で沈める」という指標を含め、全体の戦果につながる効果的な指標を設定している。

○なぜ日本企業は一点突破、全面展開なのか?

・アメリカでホンダがスーパーカブという「小型で気楽に乗れる」という新しい指標を偶然発見した。これは体験的学習の積み重ねによる軍禅の発見が生み出した成功。

・日本軍にも通じる点だが、「一点突破、全面展開」という流れを日本人と日本の組織が採用しがちなのは、戦略の定義という意味での論理が先にあるのでなく、体験的学習による察知で「成功する戦略」を発見している構造だからと推測できる。

・「体験的学習」で一時的に勝利しても、成功要因を把握できないと、長期的には必ず敗北する。指標を理解していない勝利は継続できない。

●同じ指標ばかり追うといずれ敗北する

○日本に欠けているグランド・デザインの視点

・「全体戦略」、組織全体が追いかける指標。

○日本企業が戦略を苦手にする理由

・伊那食品工業は寒天の用途拡大戦略をとり、単にヒット商品を狙うのでもなく、商品数を増やすのでなく売上増加を支える要因が「素材用途を拡大する」ことだと見抜いていた。

○マイクロソフトが世界制覇できた戦略

・マイクロソフトは「ソフトの互換性」「ネットワーク効果」を利用したビジネスモデル「プラットフォーム戦略」で成功した。これは、商品単体の性能を問題としないことで、モノづくり大国と言われた日本の製品が後塵を拝する大きな要因となる。

・体験的学習や偶然による指標発見は、いずれ新しい指標〈戦略〉に敗れる。勝利体験の再現をするだけでなく、さらに有効な指標を見つけることが大切。競合と同じ指標を追いかけても、いずれ敗北する。

 

 

今回からは鈴木博毅さんの「超」入門失敗の本質を取り上げます。この本は、太平洋戦争における日本軍の失敗の本質と現代における日本企業の戦略の失敗の本質を重ねてわかりやすく解説しており、非常に奥深く「なるほど」といえる内容でした。

今回のテーマは「なぜ『戦略』があいまいなのか?」です。今回もっとも印象に残ったのは「目標達成に繋がる勝利」を選ぶということ。目標につながらない勝利をいくつ重ねたところで、大局的な勝利は得られない。目標を定めたうえで、派手ではないが、一つずつ目標に繋がる勝利を得られるよう戦略を立てることが重要だということ。

そして、指標を明確にするということ。大局観をもち、全体を俯瞰して戦略をもとに指標を設定しなければならない。そして、成功体験からくる指標にばかり頼っていては、新しい角度から出てくる指標には対抗できない。成功による慢心をせずに成功要因を突き詰めたうえで次の指標を設定することが重要だと感じました。