「超」入門 失敗の本質 鈴木博毅②


テーマ:なぜ「日本的思考」では変化に対応できないのか

●ゲームのルールを変えた者だけが勝つ

○練磨の文化を持つ日本と日本人の美点

・日本人は「練磨」の文化と精神を持ち、独自の行動様式から、特定の分野で素晴らしい強みを発揮できる民族である。

・日本の戦後経済の発展は「モノづくりの文化」が支えたといわれるが、改善を続けることで生まれる洗練は、日本人が民族的文化として持つ美点の一つ。

○型を反復練習することで、型を超えるという発想

・日本軍のもう訓練・猛反復による精強さはある種、日本のサムライ、武士の日本刀と剣術稽古にイメージが重なる。猛訓練により反復し、気が遠くなるほどけいこを繰り返すことで、やがて本人が体で技を覚え、最後には「型をマスターすることで型から離れ」剣術の達人になっていく。

○操縦技能、射撃制度を極限まで追求した日本人

・驚異的な技能を持つ達人の養成に、日本軍はかなりの力を注ぎ、実際に戦果も挙げた。しかし、兵員練度の極限までの追及は、精神主義と混在することで、後の日本軍の軍事技術・戦略の軽視につながったと指摘されている。

○当たらなくても撃墜できる兵器をつくったアメリカ人

・米軍は「達人を不要とするシステム」で日本軍に対抗した。達人ではなく「システム思考」的な方向へ、先頭を段階的に転換させた。

・「命中精度を極限まで追求しなくても勝ててしまう」という発想も、日本軍の想定する「猛訓練による達人の命中精度」が勝敗を決める船上とはあまりにも異なる世界観である。

・米軍側が「ゲームのルールを変えた」ことで、勝利につながる要素も変化した。

・ビジネスでゲームのルールを変えるのは、常にアメリカ企業であり、日本企業がそのルール変更に翻弄される姿は、名機ゼロ戦の苦戦とも重なる。

○日本人の苦手な、大きく劇的な変化を生み出すもの

・「一つのアイデアを洗練させていく」ことが得意な日本人は、小さな改善、改良を連続的に行うことで既存の延長線上にある成果を上げることに成功しやすい。

・改善を継続することで「小さな変化」を洗練させていく日本軍は、「劇的な変化」を生み出す米軍に、ゲームのルールを変えられて敗退したと考えられる。

○「ゲームのルール変化」に弱い日本組織の仕組み

・現代日本企業の弱点

①    前提条件が崩れると、新しい戦略が策定できない

②    新しい概念を創造し、それを活用するという学習法のなさ

③    目標のための組織ではなく、組織のための目標をつくりがち

④    異質性や異端を排除しようとする集団文化

・モノづくり大国として「高い生産性」と「高品質」を武器に世界市場を席巻した日本製品が、現在では製品単体の性能でなく「ビジネスモデル戦略」で敗退している。

・日本は一つのアイデアを洗練させていく練磨の文化。しかし、閉塞感を打破するには、ゲームのルールを変えるような、劇的な変化を起こす必要がある。

●達人も創造的破壊には敗れる

○創造的破壊を生み出す3つの要素

①ヒトによる創造的破壊

②技術による創造的破壊

③運用方法による創造的破壊

○「ヒト」の柔軟な活用が米軍の勝利を生み出した

・米軍は技術研究者の自主性・独立性を強く尊重することで、彼らの才能を最大限に発揮させた。一方の日本軍は、権威によって現場や優れた技術者を抑圧し、トップの考えたことが正しいという主張を繰り返し、自由を認めなかった。

○「新しい技術」が戦局を変える変化を生み出した。

・注目すべきは、米軍が開発した新エンジンが飛行速度を保ちながら「重武装・高い防弾性」を可能にしたことで、空戦の勝敗を決定する要因〈指標〉が変わり、零戦が敗れた点。

○相手が積み重ねた努力を無駄にする仕組み

・同じルールではなくルール自体を変えてしまえば、圧倒的に有利な状況を作り出せる。

・創造的破壊を生み出す三つの要素

①    「ヒトと組織」の極めて柔軟な活用による自己革新

②    「新技術」の開発による自己革新

③    技術だけではなく「技術の運用」による自己革新

・既存の枠組みを超えて「達人の努力を無効にする」革新型の組織は、「人」「技術」「技術の運用」の3つの創造的破壊により、ゲームのルールを根底から変えてしまう。

●プロセス改善だけでは、問題を解決できなくなる

○日本軍の知識を強化する学習

・仮にプロセス=「過程・経過」と考えると、過程を洗練させる「プロセス改善」とはスタートラインとなる「思想・手法」をそのままに、その過程を最大限改良することで、結果をより良いものにしていく作業と考えることができる。

○売れないのは努力が足りないからだ!は本当か?

・プロセス改善での成功体験は、努力至上主義や精神論と大変結びやすい性質である。

・「現場の努力が足りない」という安易な結論は、直面する問題の全体像を上級指揮官が正しく把握していないことに本当の原因がある。

○「ダブル・ループ学習」で問題解決に当たる

・「ダブル・ループ学習」とは、目標や問題の基本構造が違っているのではないかという疑問・検討を含めた学習スタイルを指す。

・ダブル・ループ学習で疑問符をフィードバックする仕組みを持つ。「部下が努力しないから駄目だ」と叱る前に問題の全体像をリーダーや組織が正確に理解しているか再確認が必要である。

 

今回特に印象に残ったのは、「ゲームのルールを変える」ということ。太平洋戦争では日本軍の「練磨」「反復での型の極め」を全く無効にしたアメリカ軍のVT信管という命中精度が低くても効果的な武器の話。アップルがプラットフォーム戦略で日本の電機メーカーの性能へのこだわりを無効にしたこと。「日本的思考」に傾倒しすぎるとグローバルなマーケットでは通用しないということを思い知らされました。社内においてもダブル・ループ学習でフィードバックをしながら、そういった思考に陥らない工夫をすべきだと感じます。自分自身も自分の成功体験や慣習に縛られることなく、常にクリエイティブに物事を考えていかなければならないと心に刻みました。

投稿者: Masahiro Ito

サーフィンとマラソンをこよなく愛する自称ソーシャルサラリーマン。 自分自身がメディアとして発信できる新しい時代の波に乗るために奔走中。 伊藤人語では、読書初心者の方にポイントを紹介。 僕が薦める本に興味を持ってもらえればこれ幸いでございます。

Loading Facebook Comments ...

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です